第21章 無惨様、ヤンデレになる?
「紡希ちゃん、大丈夫? 電話に出なかったから心配して――」
「…………っ!?」
な、何で先輩がここに!? 冷や汗が吹き出たけど……予想できたことではある。私は眠っていたから、仕事のメールなどを無視してしまっていたのだろう。普段の私は絶対にそういうことをしないよう気を付けているから、余計に不審がられたのだ。
「何だ貴様は?」
「あ、あれ……? 紡希ちゃんの家、だよね……?」
「紡希なら奥で仕事をしているが」
「え? あ、はい……」
……うわぁ、これ最悪だ。先輩はきっと無惨様のことを、同棲してる彼氏かなんかだと思ったよ。それにしても無惨様、開口一番『貴様』はないでしょーよ。
「あ、あのぉ~……」
仕方なくとぼとぼと出ていくと、先輩は完全に面食らった顔をしていた。
「電話に出られなくて、本当に申し訳ございません。資料は、徹夜して必ず朝までには送りますから……」
「あ、う、うん……。な、なんか……ごめん……」
「い、いえ……」
き、気まずい。玄関先でお互いに目を逸らしてぎこちない会話をするこの空気、なんとかしてほしい。
だからと言って、血まみれのベッドと血液パックの段ボールがある部屋の中に彼を上げるわけにはいかないけど……。
「用は済んだのか」
痺れを切らしたように、無惨様が苛々した様子で言った。それから彼は、文脈の繋がらない言葉を続けた。
「まあいい。手間が省けた」
「えっ……?」
その瞬間、無惨様の手が先輩めがけて大きく振りかぶって……言葉の意味が瞬時にわかった。無惨様は、先輩を殺して食べる気なんだ!
なんで、なんで、よりによって。
「だめーーっ!」
半ば無意識的に、体が動いていた。私は自分の限界を超えるスピードで腕に飛び付いて……自分と無惨様を、『転移』させてしまっていた――
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