第19章 褒美をくれてやる
選んだ写真の――夜景の見える展望台に降り立って、繋いだ右手の感触を確かめる。……うん。無惨様も一緒に転移できたみたいだ。
「成功ですね~。頭しか連れて行ったことなかったんで、不安でしたけど」
「……ああ」
眼下の街明かりが、美しく煌めいている。それは、私たちにとっては食糧に過ぎない……人間たちが確かに生きている証。
「やはり、令和の夜は明るい」
「……はい。きれいですねぇ」
こんな美しい景色を二人で見られることが、当たり前の日常が、とても嬉しい。さっき死にかけたこともあって、何でもないことが余計ありがたく思えた。
それにしてもこの夜景は、いつ撮ったものだったかな。大切な写真だったような気もするけど、なぜか思い出せない。
実は鬼になってから、こういうことが増えた。だから、記憶が全く消えていないといえば嘘になるんだろう。
でも多分、今の私にとっては不要な思い出なのだ。ここが、かつて人間だった頃に愛した誰かと来た場所だったとしても……今の私の大切な人は、無惨様ただ一人なんだから。
それにしても……手は、繋いだままで構わないのだろうか。彼が敢えて離そうともしないので、私はもじもじしながらも温もりを享受していた。
「で、転移に使えるのは、スマートフォンの写真だけなのか? 印刷されたものは? 絵はどうなんだ? 他にも色々試してみろ」
「あ、はい……」
手を離さなかった理由は、単にもっと血鬼術を体験したかったからのようだ。……なーんだ、がっかり。でも、これこそが無惨様だ。
「これは、ネットで拾った東京タワーのイラストですね。試しに行ってみましょう!」
「……ああ」