第18章 血鬼術
不思議なことにここは、直前までネットで調べていた温泉宿の近くだった。夜中だから人通りがなくて良かったけど……でも、どうして突然こんなところに来てしまったんだろう……?
「やっぱり血鬼術を隠してやがったか。油断ならない奴だぜ……」
男のその言葉に、私はハッとする。そうか、血鬼術……このテレポートは、私が起こしたものだったんだ。
まあ、考えてみればそうか。あれだけ血をもらって、何の異能も持っていないわけがないよね。
そして、テレポートを起こせる条件は、多分――
「ま、どうでもいいか。ちょっとぐらい妙な術が使えたところで、お前は全然戦い慣れてないみたいだからなぁっ!」
男は、私に向かって猛然と突進してくる。いくらなんでも、そう何度も同じ手は食わない。背後に回り込んで男の頭部を捻り切る。だが、日輪刀以外で首を切ったところで鬼は死なない。間もなく手の方が追撃を放ってきた。
「後ろがガラ空きだぜ! くたばりやがれぇエエエ!」
だけど私は、その攻撃を受けることはなかった。なぜなら、手が到達する前に別の場所に転移していたから。……ついでに、私に掴まれたままの、男の頭部も。
「……え? ハァ!?」
人気のない森の中に突然『頭』を連れてこられて、男は混乱していた。……私の予想は当たったみたいだ。
「さっきの場所から、飛行機で一時間はかかる。……これだけ遠いと、『身体』を迎えに行けないね?」
「ざっけんな、お前、マジで――」
ぎゃあぎゃあと喚く男の首を持ったまま、私はおもむろに森の中を歩き始めた。
土壇場で発動した私の血鬼術。おそらく、自分の傷口――血液で触れたイメージの場所に移動できるものだ。無惨様の記憶の中にいた上弦の肆、鳴女と似たような能力なのだろう。
「じゃあ、さよなら。安らかに」
岩の上に、ゴトリと男の首を置く。ここなら朝になれば、日光がよく当たってくれるだろう。