第17章 有効活用してやるよ
それから、数日後のこと――
「うぅ……すっかり遅くなっちゃった」
時刻は、23時半。この日は雨だったので、久しぶりに出勤していた。自分の仕事が終わった後も引き継ぎ業務に夢中になっていたら、いつの間にかこんな時間になってしまった。今はやっと職場を出て、駅に向かっているところだ。
近道をするために、階段を降りる。地下道はひっそりと静まり返っていて、あまり人通りがなかった。夜はチンピラの溜まり場になることもあるので、人間だった頃は避けていた帰り道だ。
だけど鬼となった今は、例え絡まれても怖くない。特に警戒することもなく、淡々と足を進めていた。
ふと、壁に貼られたポスターに目が留まった。温泉街の宣伝ポスターのようだ。
(温泉かぁ。ふたりで行ってみたいな。無惨様、浴衣似合いそうだし)
古めかしい温泉宿で浴衣で過ごす無惨様を想像して、思わず頬が緩んだ。
(でも、普通に誘っても行ってくれなさそうだなぁ)
そんなことを思いながらも、私はスマホで検索を始めていた。温泉街は、最寄りの駅から電車で三時間ほどの距離のようだ。
「おぉ、いい雰囲気。こんなところでデートできたら素敵すぎる……」
そんな呑気なことを言っていた矢先――
嫌な気配を感じて、私は咄嗟に振り返った。見ると、知らない男がにやにやしながらこちらを見つめている。
(チンピラ……? ううん、違う。この感じは――)
瞬間、男の手が巨大化して、物凄いスピードで私に向かってきた。
「……!」
私は攻撃を躱して――爪を出して反撃する。巨大な手を裂いて腕を引きちぎると、男はさらに口端を吊り上げていた。
「へえ、強いね、お嬢ちゃん」
「……あなた、鬼だね。なんなの? いきなり攻撃してきて」
「まあまあ、そんなに怒るなって。挨拶のようなものさ。鬼同士の戦いは不毛……そうだろう?」
「…………」
男は腕を拾うと、気味の悪い笑みを浮かべながらひたひたと近寄ってきた。鬼は……無惨様以外にも生き残っていたようだ。