第16章 本当にどうしようもなく
「あはは……悔しいな。紡希ちゃんがそんなに好きな人って、どんな人なの?」
「うーん……」
私は、返答に迷った。……そうだなぁ。どんな人って言われても、第一、人じゃないしなぁ。
「その人は、先輩みたいに優しくないし、あたしをゴミのように扱うし、服を買ってあげてもセンスがないとか言うし」
「ええっ!?」
「口が悪いし、すぐ暴力を振るうし、言うことなすことめちゃくちゃだし……」
「え、えっと、それは……?」
先輩は、憐れむような目を私に向けていた。……こうして並べてみると、無惨様ってホントいいとこないな。
「でも、どうしようもなく好きなんです」
こう言い切ると、先輩はちょっと引いていた。うん、そりゃーそうだ。だって、自分でも引いてるもん。
「……今日は、楽しかったです。ありがとうございました!」
「あっ――」
ぺこりとお辞儀をすると、私は走り出した。
夜の街を、全速力で駆けていく。なぜかはわからないけど、そうしたい気分だった。私には、私には、今すぐ会いたい人がいるんだ――
「うひゃっ!?」
と、しばらくして、誰かに思いっきりぶつかってしまった。私は、慌ててブレーキを掛けて立ち止まる。相手を怪我させてしまったんじゃないかと、恐る恐る顔を上げてみると――
「む、無惨様……なんで?」
そこには、会いたくて仕方がなかった相手が立っていた。彼は家にいるはずで、こんなところに来るはずもないと思っていたのに。