第16章 本当にどうしようもなく
それから一緒に映画を観たけど……ベストセラー小説を原作にしているその作品に、私は全く感動できなかった。
ヒロインが死を迎える場面では映画館内にすすり泣きの声が響いていたのに、私は酷く冷めた目付きでスクリーンを眺めてしまっていた。
……死が辛く悲しいのは、命が有限だからだ。首が飛んでも死ねない私には、共感できなくなってしまったんだ。
「映画、よかったね」
劇場を後にしながら先輩にこう言われたけど、私は「はい……」と返すのが精一杯だった。
無惨様は私のことを『心が人間のままだ』と言っていた。だけどそれは、彼が見てきた他の鬼たちと比べてのことであって……私は確実に、今までの私ではなくなってしまっている。そのことを今日、思い知らされてしまった。
「紡希ちゃん、あの――」
先輩が私の手を握ろうとしているのが見えて、咄嗟に後退りした。振り払っていれば骨をへし折っていただろう。危うく、先輩を怪我させるところだった。
「ご、ごめんなさい……。びっくりしちゃって……」
「ん……いいよ。俺の方こそごめん。紡希ちゃんには、好きな人がいるのにね……」
「……はい」
その言葉を最後に会話は途切れ、二人の間にしばらくの沈黙が流れた。……だめだ、もう。ごまかすことなんてできそうにない。
「……ごめんなさい。あたし、帰ります。自分から誘っておいて申し訳ないんですけど……こういうこと、これっきりにします。やっぱり、先輩とは付き合えそうに、ないから……」
「…………そっか」
……私、これ、最低だ。結局ぬか喜びさせて、弄んだだけじゃん。
ああ、泣きそうな顔だ。泣いたらカッコ悪いと思って、必死でこらえているのがわかる。それでも先輩は、一生懸命笑ってくれていた。