第15章 無惨様、メールに返信する
そして、数時間後――
「んー、そろそろお昼にするかぁ」
午前の仕事を終え、少し休憩を取ることにした。出勤している時と同じように、自主的に昼休みを儲けることにしたのだ。
昼食用に、血液パックを段ボールから取り出す。ちゅるちゅると味わっていたところで、スマホから通知音が聞こえた。たぶん、誰かからメッセージが届いたんだろう。
「ん? なんだこれは。電子手紙か?」
「そうみたいですねー。返信するんで、一瞬だけ貸して下さい~」
と、スマホに手を伸ばしたが、ひょいっと持ち上げられてしまった。無惨様は私より背が高いから、手を伸ばしても届きそうにない……。
「か、貸して……じゃなくて、返して下さい。返信しないといけないんで」
「なになに……。『紡希ちゃん。昨日はいきなりごめんね。でも俺、やっぱり諦めきれなくて――』」
「ぎゃーーっ! なんで読んでるんですか!」
「ふん、件の男か。往生際の悪い」
「勝手に読まないで下さいよ! いいから返し――」
「はは、私が返事をしておいてやろう。この枠に文字を打てばいいのだな?」
「やめて!」
見上げると、無惨様は面白い玩具を見つけた、と言わんばかりの顔をしていた。
「付き合いたいのか? お前はこの男の身体では満足できないだろう?」
「そっ……れはそうかもしれませんけど! どうせ変なこと書くんですよね! 返してくださいっ!」
「うるさい」
……と、一瞬で腕を弾き飛ばされてしまった。
「ああ~、もう! また床が血まみれに! 掃除するの大変なんですから――」
腕をくっつけながら喚いているうちに、無惨様は勝手に送信ボタンを押して――
たった二文字のシンプルな言葉を、返信していた。
『しね』
「はぁあああああーーーー!?」
最悪だ。最悪中の最悪だこれ!
「ちょっと、何やってんですか! ヤキモチ妬いてんですか!?」
「はぁ? 万にひとつもあるか。鬱陶しいから会話を終わらせただけだ。私は勉学の途中なのだ。そもそも貴様がパソコンを使わせないというから――」
「うぅ~……」