第1章 無惨様、令和に降臨す
「あはは。便利ですよ、スマホ。電話だけじゃなくて、インターネットもゲームもできます。音楽だって聴けるし、本も読めるし、写真も撮れるんですよ!」
「頭の悪い女だな。日本語を喋れ」
「な……喋ってますけどっ!?」
……前言撤回。合わせてあげてるのに、この尊大な態度は何なんだろう。もしかして、『人は何分でキレるか』みたいな企画だったりして……。
私は深呼吸を一つして、苛立ちを抑える。それから、笑顔を作ってこう言った。
「お兄さん、にっこり笑ってみて下さい!」
「ハァ?」
カメラアプリを起動し、シャッターを押す。カシャッという音と共に、不機嫌そうな男の顔が記録された。
「ほら、便利でしょ? 電話だけど写真も撮れるんですよー!」
ドヤ顔をして見せつけてやると、男は驚きのあまり固まっている……ような演技をした。
「な……。写真に色がついている……。しかも、その場で現像された、だと……?」
「うふふ。そうです! カラーなんですよぉ! すごいでしょ~~」
「何ともハイカラだな……その、すまほというやつは」
「ハイカラ……古っ! あっはっは! ハイカラでしょー? カラーでハイカラなんですよー!」
「うるさい、不快な声で笑うな。鬼は……どうなったんだ? 私以外、みな全滅したのか?」
「おにって?」
「鬼狩りは? お前、鬼殺隊という名を知っているか?」
「きさつたい? 聞いたことないですねぇ」
「鬼がいなくなり……彼らもまた、途絶えたのか?」
「さぁー?」
本当、なんなんだこの人。タイムスリップ設定を貫いてると思ったら、今度は鬼って。いわゆる中二病ってやつなのかな。
訝しがっていると、男は突然私の腕を掴んだ。
「説明するのも面倒臭くなってきたな」
「んっ? なんですか?」
「少々頭が足りなさそうだが、仕方がない。こいつで良いか……」
「えっ――」
それからすぐさま、首筋に何かが打ち込まれた気がした。
痛みを感じる前に私は男の腕の中に倒れ、視界が真っ暗になっていたのだった――
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