第12章 雨の音
(大丈夫、無惨様。下弦の壱は……あたしは、ずっと側にいるから。絶対に裏切ったりしないから)
家に帰ると、無惨様に思考を全部読まれてしまう。だから私は今のうちに、読まれたら恥ずかしいことを考えておくことにした。
(世界中のみんなが貴方を殺そうとしても、あたしは最後の最後まで味方でいる。……あたし一人がそうしたところで、なんの足しにもならないかもしれないけど)
無惨様は今ごろ、家で何してるのかなぁ。インターネットに夢中だけど、怪しいサイトに引っ掛かったりしてないかな。私が家に帰ったら、パソコンがウイルスまみれになってたらどうしよう。後から架空請求がたくさん来たらどうしよう。
そんな想像を始めると、ふふっと小さく笑いが漏れた。つまり、そうなったところで私は、彼を責める気なんかさらさらないってことだ。
(そういえば、無惨様の服でも買って帰るかなぁ)
ふと、そんなことを思った。服を奪われる被害者が、どんどん増えても困るしね。
……どんな服がいいかな。無惨様って顔だけは良いから、割とどんな服でも似合ってしまいそうだよね。
頭の中で着せかえを始めてみると楽しくて楽しくて……いつもなら憂鬱なはずの通勤の時間は、あっという間に過ぎ去っていったのだった。
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