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無惨様、令和に降臨す【鬼滅の刃】

第12章 雨の音


 ちなみに、私が出かける頃になると、無惨様はまたインターネットを始めていた。話しかけても生返事しかしないほど夢中になっている。この調子だと今日は1日、家でおとなしく居てくれそうだ。

 ほっとした私は、「行ってきますね」とだけ声を掛けて家を出て……無事に電車に乗り込んだのだった。



 電車の中は――いつものことではあるけど、人間がいっぱいだった。朝、血を飲んできておいて良かったと心から思った。そうでないと、『目の前にご馳走が並んでいるのに食べられない』という拷問状態になっていただろう。

 吊革に掴まって揺られながら目を閉じると、車窓に打ち付ける雨の音がよりはっきりと聴こえてくる。雨の日は嫌いだったけど、鬼となった今では、雨音を心地好く感じるから不思議だ。

(無惨様は……雨の日は好きだったのかなぁ)

 晴れの日には、彼は外に出ることすらできなかった。1000年もの間、日光に怯えながら暮らしていたなんて……私なら気が狂ってしまいそうだ。

 無惨様はもしかしたら、ただ普通に生きたいだけだったのかもしれない。普通の人間がしているように、日光の下を歩いて、美味しい食べ物を食べて。

 そのささやかな望みが叶えられないうちに、歪んで、歪んで――

 彼に比べると、人間はとても恵まれた生き物だ。私はついこの間まで、その恩恵を当たり前のことだと思っていた。……なんて傲慢で、罪深い生き物。

 ――と、暗くなった気持ちを切り替えるように、私は頭を横に振った。

 瞼を上げると、窓に映る自分の姿が見えた。爪も牙も隠してしまうと、ほとんど人間にしか見えない。

 眼球に刻まれた文字だけが、私が鬼であることを――あの人の配下であることを証明してくれている気がする。
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