第12章 雨の音
次の日――
この日は、朝から土砂降りの雨だった。雨戸は閉めきっているけど、音でわかる。アラームをかけ忘れていたのに、雨音で目が覚めてしまったほどだ。おそらく空は厚い雲で覆われていて、日の光は地上に届いていないだろう。
これなら、会社に行けるかもしれない。今日だけでも出勤して、理由をなんとかでっち上げて……穏便に退職する方向に持っていく。もう、それしかないと思った。
みんなに迷惑がかかることは、百も承知している。それでも、いきなり連絡もなく行かなくなるよりは遥かにマシだ。雨の日だけでも出勤して、後は家で仕事しながら……なんとか引き継ぎを終わらせるんだ。
隣にいる無惨様を起こさないようにベッドを抜け出し、雨戸を少し開けてみる。身体には何の異変もない。……うん、外に出ても大丈夫みたいだ。
「仕事に行くんだな?」
――と、雨戸を閉めるなり、突然無惨様に話しかけられた。
「あ、はい……。ていうか、起きてらしたんですね」
「最初から寝ていない。鬼に睡眠は必要ないのだ。なのに貴様は、なぜ眠る? 不思議でならん」
「んー……。なぜって言われても、眠くなるから寝てるだけで」
「眠くなる……。肉を喰っていないからか? このあたりに何かあるのか……?」
「どうなんでしょうねぇ」
考え込んでいる無惨様をよそに、私は身支度を始めた。
なぜ自分が眠くなってしまうのか気にはなるけど、とりあえずは後回しだ。会社を辞めた後にでもゆっくり考えられる。
「あれ……?」
と、私はふと、あることに気が付いた。無惨様が、いつもと違う服を着ているのだ。部屋着っぽいラフな服で、ベッドに寝転んでいる。また、人間から奪ってきたんだろうか。
そういえば昨日の朝すでに、一昨日私が洗ってしまったシャツとは微妙に違うシャツを着ていた……ような気がする。まさか私が寝た後で、裸のまま奪いに行った……?
(っていうか今までの服、どうしたのかな。捨てたのかな……?)
家の中を探してみても見当たらないので、私は疑問に思った。もし本当に捨てたのならもったいないけど、いくらでも奪えるから、そんなことは気にしないのかなぁ。