第10章 ただ、孤独な生命を
それにしても、夏の朝だというのに部屋の中が薄暗い。灯りはついているが、陽の光が差し込んでいないのだ。
よく見ると、いつの間にか雨戸がすべて閉めきられている。たぶん、無惨様がやったんだろうけど……。
「もー、雨戸なんか閉めちゃって。大雨でも降りました?」
私は呑気にそんなことを言いながら、雨戸を引き開ける。
すると――
「ぎゃあああああ!」
日光に触れた部分が、灼け付くように痛い! 見ると、一瞬にして腕が爛れてしまっていた。
「早く閉めろ!」
「は、はいぃ……」
慌てて雨戸を閉めると、腕はすぐに回復した。だけど、あのままだったら何秒も経たずに全身が灰になっていただろう。
「与えた記憶の中にあったはずだ。鬼は、日光を浴びることができない」
「ええっ!?」
無惨様は、ワークチェアを離れて部屋の隅に避難していた。……自分だけずるい。
「だから言ったのだ。会社に行けるものなら行ってみろとな」
「そ、そんな……」
日光を浴びたらダメなんて……会社どころか、昼間に遊びにも行けないじゃん。これから、ずっと……?
一生、死ぬまで……?
あれ、でも、鬼の寿命って……?
無惨様は、平安時代からずっと生きて――
じわじわと理解すると、遅れて絶望がやってきた。それは、鬼になって、一番の絶望だった。
首が飛んでも回復したり、人を食べないと死ぬとわかった時よりも、はるかに大きな衝撃で……私は床に座り込んだまましばらく立ち上がれなかった。