第10章 ただ、孤独な生命を
次の日――
アラームの音が聞こえたと思ったら、すぐに無惨様に叩き起こされた。見ると、青筋を浮かべてブチ切れている。
「うるさい。早く止めろ」
「はい……」
無惨様は、アラームの止め方なんてわからないよね。びっくりしたんだよね。仕方ない。
私は枕元のスマホを拾い上げ、アラームを解除する。部屋の中は真っ暗だけど、時刻は7:00。朝のようだ。
無惨様はとっくに起きて――いや、寝てないかもしれないけど、広辞苑の続きを読んでいたようだ。アラームに邪魔されたことで、すっかりご機嫌斜めになっていた。
「一体何故、あんな騒音を鳴らした!」
「いででででで……」
首と腕に、爪を立てられてしまった。こんなにキレられるなら、明日からアラームを掛けられないじゃん……。
「うう、だ、だって、起きないと。会社に行かないといけないから……」
「会社だと?」
無惨様は眉間に皺を寄せて、爪を引き抜いた。首筋に手を遣ると、もう回復しかけている。なんだか、回復速度が上がったような……気がする。
「この時代では女も当たり前に働いているようだが、お前もそうなのか?」
「は、はい。8時には家を出るので、今から準備をしないといけないんです」
「その必要はない」
「へっ……?」
必要ないって……まさか、会社を辞めろとでも言うの?
いくら無惨様の頼みでも、それはさすがにできない。仕事を辞めたら、生活ができなくなってしまうから……。
「会社に出勤できるものなら、してみるといい」
無惨様はそれだけ言うと、また読書に戻ってしまった。『できるものなら』って、どういう意味なんだろう。