第9章 無惨様、シャワーを浴びる
無惨様は広辞苑に夢中になっていたから、放っておいてお風呂に入ることにした。
貴重な日曜を丸1日眠って過ごしてしまったことで、明日はもう月曜日だ。月曜ということはつまり、会社に行かなくてはならない。
「あー……お風呂っていいなぁ」
本当に色々なことがありすぎたけど、温かいお湯に浸かっていると、疲れがじんわり取れていく。
血を飲んだ時の方が一気に回復した気もするけど……そこはあまり深く考えないでおこう。
(それにしても、会社かぁ。無惨様……一人で家に置いといて、大丈夫かな)
もし、私が留守の間に誰かを殺して食べて見つかったら……大変なことになるよね。警察に捕まって、牢屋行きになったり……? いや、無惨様がおとなしく捕まるはずもないから、いっぱい死人が出たりして……。
と、そんなことを考えていた矢先――
「私がそのような下らん失敗をすると思うか? 姿などいくらでも変えられると言ったはずだ」
「ふぇっ!?」
カチャッと浴室のドアが開いて、しかめっ面の無惨様が現れていた。
「ひぃい! なんでいるんですか!」
「む、ここは風呂だったか」
「そうですよ! 覗かないで下さい!」
「ふうむ……このようなユニットバスが一般家庭に普及しているとは」
何やらブツブツと呟きながら、なんと無惨様は何食わぬ顔で浴室に入ってきた。
「ちょっと、何やってるんですか! 恥ずかしいから出ていって下さい!」
「恥ずかしい? 何を今さら。お前の裸など、とっくに全部――」
「うぎゃあああ!」
あぁあ、そうだった……そうだったよ。思い出したら、今すぐ消えたくなった。
「あ、あれは、そのぉ~……一晩の過ちのようなもので……」