第8章 おいしいっ
「ふぁーあ、起きよ」
伸びをして、立ち上がる。するとすぐに部屋の真ん中に、置いた覚えのない段ボール箱があるのに気付いた。
「ん……これ、なんだろ」
「お前が眠っている間に調達しておいてやった。有り難く思え」
「調達……?」
そう呟きながら箱を開けると、中には輸血用の血液パックがたっぷり入っていた。
「え、これって……」
「これを飲むぐらいなら抵抗もないだろう。肉が食えるようになるまでの繋ぎにしろ」
「…………」
私は、ぽかんと口を開けてしばらく固まっていたように思う。無惨様がまさか自分のためにこんなことをしてくれるなんて、夢にも思わなかったから――
「わぁあ、ありがとうございますっ……!」
感極まりすぎて、気付くと私は無惨様に抱きついてしまっていた。
「許可なく体に触れるな! 触っていいとは言っていない」
「はっ、ごめんなさ――」
「……まあいい。今だけは特別に許してやる」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられると、胸が暖かくなった。
無惨様って、不器用なだけで本当はすごく優しいんじゃ……と思いかけた時、ある疑問が頭をもたげた。
(んん? でも、そもそも、無惨様が私を鬼なんかにしなければ、血は必要なかったわけだし……。自分で飼うと決めたペットに餌をあげているような、そんな感じ……?)
「なんだ、その目は」
「……いいえ、何でもないです」
「私はペットを飼っているつもりなどない。希少価値があると判断したから生かしただけだ。それから、お前にはまだ役に立ってもらわないと困る」
「……はい。そーですよね……」
なんだか白けてしまったので、私は、すっと無惨様から離れた。こんな奴に自分から抱きついていくなんて、本当にどうかしてるよ。頭を冷やさなきゃ。