第1章 無惨様、令和に降臨す
令和元年、夏。それはとても蒸し暑い、土曜の夜のこと――
「んー……。ちょっと早く着きすぎちゃったかなぁ~」
時刻は、19時前。私、こと浅野紡希は、駅前を当て所なく歩き回っていた。友達と四人で飲みに行く約束をして待ち合わせていたのに、まだ誰の姿も見当たらないからだ。
もしかしたら、集合時間を勘違いしていたのだろうか。過去のメッセージを確認するため、バッグからスマホを取り出したところで――
「うひゃっ!?」
歩いてきた人にぶつかってしまった。私はすかさず「ごめんなさい!」と謝る。たとえ一瞬でも、ちゃんと前を見ていなかった私が当然悪いのだから。
「…………」
ぶつかった相手は、なぜかじーっと私を見つめていた。20代後半ぐらいに見える、端正な顔立ちの男性。……知り合いだっただろうか?
「あ、あのー……?」
男があまりに棒立ちになっているから、私は声を掛けざるを得なかった。
「お知り合い、でしたっけ?」
「いや」
「で、ですよね……」
もしかして、ぶつかったことをめちゃくちゃ怒ってるとか……?
だけど、そういうわけでもなかったようだ。男は私のスマホを指差すと、突然訳のわからないことを言い放ったのだ。
「その、光る板はなんだ」
「は……はい?」
……光る、板? スマホのこと、言ってるんだよね?
もしかして、この人はずっとガラケー派で、スマホをあんまり見たことがなかった……のかな?
「スマホ、ですけど……?」
私がこう答えると、男は顎に手を当て、なにやら神妙な顔をした。
「すまほ……。それは、一体何だ? 街行く人がみんな持っているようだが」
「ええぇ……?」