第7章 来るなって言ってんのに
「ほーら、俺らと遊ぼうって」
一人の男がナイフをちらつかせて、さらに歩み寄ってくる。
……だめだ。これ以上近づかれたら、抑えが効かなくなる。私は咄嗟に、男からナイフを奪い取った。
「なっ……何しやがんだこのっ――」
そう言いかけた男は、すぐに異変に気付いたようだ。私はただナイフを奪っただけなのに、その際に彼の手首を折ってしまったらしい。
「ぎゃあああああ! いってぇええええ!!」
「だから! 来るなって言ってんのにッッッ!」
私は、自分の首にナイフを思いっきり突き立てた。自らダメージを与えることで、少しでも動きを鈍くするのだ。
「ひっ、なにやってんだこの女っ!?」
「アタマおかしいんじゃねーのか!?」
残る二人が、やっと状況を理解して後ずさった。……そう、それでいいんだ。
「わたしは、頭がおかしい。殺されたくなかったら……早く失せろ。お願い、だから……」
ここまで言うと、男たちは一目散に駆け出していった。
ナイフを首から引き抜くと、傷口はたちまち塞がったが、代わりに猛烈な目眩が訪れた。
ああ、もうだめだ。目を開けていられない――
その時、背後に無惨様の気配を感じた。
……追いかけて、きたのか。当然だよね。監視するって言ってたもんな……。
「愚かな。肉体に傷を付ければ、さらに空腹になるというのに」
「無惨様……」
「まさかここまで耐えられるとは思わなかった。そうまでして、肉を喰いたくないか」
「うう……。どうしても、食べられません……。出来損ないのわたしを、殺して……ください……」
「出来損ないのわけがない。人を一人も喰わずにあれだけの力だ。回復速度も異常に速い」
「それでも……人を喰えない以上、これより強くなることはありません。わたしは……貴方の忠実なしもべにはなれそうにないから……」