第7章 来るなって言ってんのに
ビルを飛び出し、私は脇目も振らずに走り続けた。どこに向かおうとしているのかは、自分でもわからなかった。
ただ、なるべく人のいないところに行きたいとはぼんやり考えていた。
……食べたくない。食べたくないから、お願いだから誰も出てこないで……!
少し息が切れたので、足を止める。鬼の身体でも、多少は疲れるらしい。
辺りを見渡すと、寂れた商店街の路地裏のようだった。無意識のうちに、人のいないところに辿り着けたようだ。
(よかった。誰もいない……)
私はホッとして、腰を下ろす。同時に、足がもつれて壁に倒れ込んだ。空腹のせいで、うまく身体をコントロールできないみたいだ。
(無惨様は、わたしに失望するだろうな。でも、これでいいんだ……)
記憶を覗いた限り、彼はとても臆病な性格だ。この令和の時代に降り立ち、わからないことだらけで不安だったはず。
上弦の鬼たちもいなくなった今、自らを窮地に追いやった鬼殺隊がどうなっているかを確かめるまでは、動くつもりがなかったのだろう。つまり彼は、自分の代わりに情報を集めてくれる忠実なしもべがほしかったんだ。
人の肉を食べられない私は、無惨様の求めるしもべにはなれそうにない。上弦たちのような強さを手に入れることもできないだろう。
でも、だからと言って、元の生活に戻ることもできない。死んだ方がマシだと思えるほどの空腹と喉の乾きが、自分がもう人間ではないことを何より教えてくれている……。
「あれぇー? キミ、こんなとこで何してんの~?」
「ひっ……」
その時、いきなり頭上から声が降ってきて、私は身体を痙攣させた。見上げると、肉の塊が四つ――たぶん人間の男の人なんだろうけど――ゆらゆらと揺れながら私を取り囲んでいる。