第6章 空腹を満たすもの
結局私は、半ば無理矢理に服を着せられて、家から引きずり出された。すっかり真夜中になっているのもあって、アパートの周りには誰もいなくなっている。
「はぁ、はぁ……」
「苦しいか? もう少しの辛抱だ」
「うぅ……はい……。でも、付いてきて下さるんですね……」
「監視しているだけだ。今の段階でお前が騒ぎを起こせば、私の居場所が割れてしまう」
「ああ……」
頭がガンガンして、目が回る。無惨様に肩を貸してもらわないと、まともに歩けないほどだ。次に人間を見かけたら、見境なく食い付いてしまいそうだ。
だからお願い、誰も私の前に現れないで――
そう、思っていたのに。
連れられるままに歩いて、町外れの廃ビルに辿り着いた。
「こんなところに人がいるとは思えませんけど……」
「いや、二人いる。匂いでわかる」
「そ、そうなんですか……?」
「お前も鬼ならわかるはずなんだがな……」
真っ暗なビルに足を踏み入れ、物音を立てないように慎重に歩いていく。
そのうちに、部屋のひとつから男女の話し声が聞こえてきた。
「ちょっとー、大丈夫なの? こんなトコで」
「いーのいーの! 早く脱げって」
「アタシ、ホテルが良かったんだけどー」
「っせーな。カネがないって言ってんだろ」
明らかに、これから情事に及ぼうとしている雰囲気。なのに、無惨様は一切の躊躇もなく部屋のドアを開け放った。
「きゃっ!」
「うわあっ!」
中にいたのは、二人の若い男女だった。……新鮮で、美味しそうな――
「紡希、やれ」
「う、うぅう……」