第4章 無惨様、アパートにいらっしゃる
「な、な……。は? え?」
バッと身を引いて唇を離すと、続けて無惨様も目を開けた。
「なに、ただの戯れだ」
「た、戯れって……」
「間抜け面をして。お前の礼儀を欠いた物言いにも大分慣れてきたぞ」
「ひどいですっ! いきなりこんなっ」
「首を飛ばされる方がよかったのか?」
「そうは言ってませんけど!」
びっくりした……びっくりしたよホントにっ!
ああ、まだ心臓が脈打っている。不覚にもドキドキしてしまった――なんて、言わなくてもとっくに伝わっているはずだけど。
「色気のない女だと思っていたが、そんな表情もできるんだな。これなら抱いてやっても――」
「いいですっ! 遠慮しとくっ……!」
そう言ってベッドから這い出ようとしたけど、すでに腰に手が回されていて、がっちりホールドされている。
「女にもすっかり飽きていたが、何せ百年ぶりだ。新鮮な気持ちで楽しめるかもな?」
「うぅ……」
……すんごい嫌だけど、嫌だけど、細胞レベルで逆らえそうにない。このまま本当に、そういう展開になっちゃうわけ?
半泣きになった私の涙をぺろりと舐め取って、無惨様はこれまで見たことないほど上機嫌な顔を浮かべている。
白い頬がわずかに上気して赤みを帯びていて、扇情的ではあるけど……そんなことを考えている場合ではない。
やだよ。もうホントに勘弁して!
このままじゃ私、別の意味で食われてしまう。『誰か助けて』なんて思ってみても、今すぐ助けてくれる人なんか、いるわけないんだけど……。
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