第4章 無惨様、アパートにいらっしゃる
「どこへ行く」
「どこへも行きませんよ! 友達に返信するんです。無惨様のせいで、約束をすっぽかしちゃったんで!」
部屋の角にあるベッドに寝転んで、彼に背を向けた。それから、溜まりすぎたグループチャットに謝罪の言葉を書き込んでいく――
《みんな、今日行けなくて、本当にごめん!》
《あ、紡希無事だったんだ!》
《めっちゃ心配した! 一体なにがあったの?》
《もしかして、事故にでも遭った?》
《ううん、そうじゃないの。体はなんともないよ》
……そう返信してから、『何ともないわけはないな』と自嘲気味に笑った。『首が飛んでも死なない鬼になってしまった』なんて、言えるわけがないけど。
《みんなを待ってたら、変な人に絡まれちゃって》
逡巡の末に、こう返した。概ね、間違ってはいないし。すると、すぐに全員から大袈裟な反応があって……私は、もっと他の言い訳ができたんじゃないかと軽く後悔してしまった。
《変な人!? 何それ大丈夫なの!?》
《何もされなかった?》
《今も捕まってたりしないよね!?》
「あー……うん。そうなるよね」
遠い目をしながら、私は呟いた。
《今は解放されて、家に帰ってる。無事だよ》
その後も、『警察に行った方がいい』とか『なんでも相談して』などと、ありがたいメッセージがたくさん届いた。……みんな、優しい。私は本当にいい友達を持った……。
だけど、こんなほっこりした気分は、長くは続かなかった。突然、背後に気配を感じたのだ。