第4章 無惨様、アパートにいらっしゃる
「なんだ、この家は。随分と狭いな」
私の家――1DKのアパートの一室に着くなり、無惨様はこう言った。
「うう……狭いですよね。ビンボーでごめんなさい……」
「貧乏? 身なりを見る限り、とても貧しいようには見えんが」
「んー……。めちゃくちゃ貧しいわけでもないんですけど、湯水のようにお金は使えないってことです」
「ふむ……まあ良い」
無惨様は靴を脱ぐと、つかつかと上がり込んだ。そしてそのまま、ソファに腰掛ける。
……紳士な見た目にそぐわない、なんて不遜な態度。
「あ、あの――」
『お茶でも淹れましょうか』と言いかけて、やめた。相手は人を食う鬼だ。お茶など必要ないだろう。それに私も……人間の飲み物が欲しい気分でもなかった。
「……上着、もし良かったらこのハンガーに……」
だから仕方なくこう声を掛けると、無惨様はジャケットを脱いで渡してきた。
そそくさと受け取って、ハンガーに掛ける。
しっかりした作りのジャケット。これって……化学繊維? どう見てもそんなに古いものには見えないけど……。
「あの、この服って大正時代の服……じゃないですよね?」
「ああ。目覚めた時は裸だったから、この時代の人間の服を奪ったのだ」
「ええっ、なんで裸?」
「まあ、色々あってな」