第3章 無惨様、地下鉄に乗る
「ところで……あれは、どのようにすれば良い?」
地下鉄の乗り場までやってきたところで、当然予想できた問題が発生した。無惨様は、改札の通り方がわからなかったのだ。
「あ、このカードをですね、あそこの機械にピッとするんです」
「ピッ、ではわからん。具体的に説明しろ」
「えっとー……」
仕方なく、私は大真面目に説明した。まさかこんなことを解説させられる日が来るなんて、夢にも思わなかったけど。
……ちなみにその後、無惨様の分のSuicaを買ってチャージもしてあげたのは、言うまでもなく私だ。ああ、なんてお優しい私。
改札をくぐって地下鉄に乗り込むと、無惨様はやっと大人しくなった。つり革に掴まったかと思うと、別人のように黙りこくってじっとしている。
たぶん、人や車両の多さに驚いているんだろう。なんたって、大正時代で記憶が止まってるんだもんな。
(……はぁ。こんなことって、ある? あり得る?)
現実は、小説より奇なり。鬼になってしまった私は、いつまでこの男に翻弄され続けるんだろう。
また、血を飲んだりするの、嫌だな。人間に戻る方法は……あるのかな。
考え始めると憂鬱になったので、私は目を閉じた。悪い夢がずっと続いているだけだといいなと、そう思いながら……。
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