第3章 無惨様、地下鉄に乗る
「でも、血を飲むって……。まさか殺した人間の体を……わたしの口に突っ込んだんですか……?」
怖いもの見たさで恐る恐る聞いてしまう。すると無惨様はあっけらかんと、とんでもないことを言った。
「指でこじ開けて口移ししたが?」
「ぎゃあああああ! 聞くんじゃなかった!」
「かつての私の部下たちなら、喜びに打ち震えたぞ」
「喜ぶわけないじゃん! ぞっとするんだけど!」
……ああもう、マジか。なんかもう、色々泣けてきた。悔しいやら気持ち悪いやらで、涙が滲んでくる。
「何を泣いてるんだ。鬱陶しい」
「うう、泣かせたのはアンタでしょ!」
「『アンタ』だと? 殺されたくなければ今すぐ言い直せ」
「うぐ~……。あ、貴方様じゃないですかぁああ~」
「誠意が足りない。言い直せ」
「あぁ~、もう! 神様仏様無惨様! ごめんなさいってばぁー……」
「いちいち声が大きい。……そうだ。これも言い忘れていたが、私の名を口にしたところを人間に聞かれたら、お前は死ぬぞ」
「へ……?」
「そういう呪いをかけているのだ。誰かに私のことを喋った時点で、お前の中にある私の細胞が、お前の体を食い破って殺す」
「な、な……」
なんだそれ。なんだそれ。なんだそれ、マジで。
呪い? 細胞? わけわかんないんですけど。
「そういうことは早よ言わんかぁーーーい!」
「騒ぐな。殺して食うぞ。それとも、死ぬより苦しい思いをしたいか? お前の代わりはいくらでもいるのだからな」
「う、うう……。バイオレンス……。パワハラだよ、パワハラ……」
「日本語を喋れと言っている」
「うぐぅ~~…………」
この人には、どうやっても敵いそうにない。それが、直感でわかってしまう。
本当に、私の人生……これからどうなっちゃうんだろう。
あ、もう鬼だから、『鬼生』なのか……?
……どっちでも、いいことだけどさ……。