第1章 小学生時代 ー三年生ー
「へー、涼君か!かっこいいよね!良い趣味してるじゃん!」
「わ、ちょっと、声大きいよ!恥ずかしいなあ……」
ほんのり頬を染めるみょうじさん。慌てる様子はまさに恋をしてる女の子、という雰囲気。
でもその可愛い表情は、俺になんか向けられてはいない。
分かってはいたけど、それだけの事で自分がこんなにも嫌な気持ちになるなんて。
それから約一週間後、彼女とその涼という男子が両思いになったという話は学年全体の常識となっていた。
─────────────
冬休みが目前に迫っていたある日、クラスでは年賀状のための住所交換が行われていた。
「あだな、住所書いて!」
「いいよ!皆も教えて!」
みょうじさんとの良い女子たちは自由帳に次々と住所を書いていく。
俺にも何人か友達が住所を聞きにきてくれた。もちろん男子だ。
ふと一人の女子が俺の周りにいた男子を見て言う。
「あ、男子たちにも送る?ねえあんたたちも教えてよ」
「え、別に良いけど」
この間恋バナをしていた女子が俺の友達に自由帳を突き出す。
すると周りにいた女子たちもそれ良いねといってそれぞれクラスの男子たちに聞きに行った。
女子ってすごい。
俺はみょうじさんの住所を知りたくて友達のノートをちらりと見る。
沢山ありすぎて見つからず、怪しまれる前に諦めて目を逸らした。
来年にはもう少し仲良くなって、年賀状を送りたい。
そう願いながら、俺は友達と冬休みにいつ遊ぶかと話し始める。
「あの、心操くんにも年賀状送りたいんだ、住所聞いてもいいかな」
うっかり聞き間違いかと思って無視しそうになった。
みょうじさんが、俺に……?
「……いい、けど」
「やったあ、ありがとう!」
ほぼクラス全員の名前と住所が書いてあるノートに、俺の名前が加わった。
たとえ気を遣ってくれただけで、情けだとしても、俺は嬉しい。
「よかったー、心操くんにはいつも教科書見せてもらったりしてるし、何より隣の席だし、絶対送りたかったんだよー!」
「……ありがとう」
「え、それは私のセリフだよ!いつもありがとう心操くん!」
お年玉より彼女からの年賀状の方が楽しみだった。