第1章 小学生時代 ー三年生ー
楽しそうにおしゃべりをするみょうじさんを眺めながら過ごす。
たまに会話に混ぜてもらったり、一緒に笑いあったりもできるようになった。
ところが。
ようやく少し進歩した俺とみょうじさんの心地よい平和な時間は、長くは続かなかった。
ずっとこのままの関係でいいとは思わないが、せめてもう少しだけでもこの幸せを噛み締めていたかったのに。
事の始まりは、三年生の二学期ももうすぐ終わるという冬のころ。いつも通り友達と喋る彼女たちの会話だった。
「ねえあだな、あいつの事どう思う?」
「どうって、元気でおもしろい奴だなって思うけど、それがどうしたの?」
みょうじさんに話しかけていた女子の方を見ると、少し顔を赤らめてもじもじしている。
「うち、あいつのこと好きなんだよね─……。あだな、応援して!私もあだなのを応援するから!」
唐突に恋バナを始めた数名の女子たちの声の中から彼女の声を聞き漏らすまいと集中した。
「あだなは好きな人いないの?」
「うえ〜、今ここで言うの?恥ずかしいよ」
つまり、いるにはいるということか。
そこから先は聞きたくない。俺じゃないのは明らかだ。
そう分かっているのに。
俺はかすかに、ほんの少し、俺の名前が呼ばれないかな、などと期待していた。
「良いじゃん、私も言ったんだからさあ 」
「秘密だよ、言わないでね?私が好きなのは」
「涼くん」
そのかわいらしい声で呼ばれたのは、同級生の中でも人気の涼という男子の名前だった。
俺じゃない。
……分かってた。