第1章 小学生時代 ー三年生ー
キョトンとしているみょうじさん。
当たり前だ。
急に話しかけられて、しかも言われたことがチョコが欲しい、なんだから。
「いいよ!私の分だけど、これあげるね」
「え、いいの……?」
「うん、はいどうぞ!」
信じられなくて、今度は俺がポカンとしてしまった。
遅れて追いついてきた颯太が「よかったな」と言って俺を小突く。
差し出した手のうえに、そっと、甘いチョコが乗せられた。
その後ほとんど上の空で南公園に戻り、からかわれてもずっとぼうっとしていた。
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帰宅してからすぐにチョコをとカバンから取り出す。
可愛くラッピングされたチョコをしばらく眺め、その甘い味を想像しながら幸せに浸った。
「……いただきます」
そっと口に入れると舌先でとろりと溶ける。ミルクチョコレートだった。
鼻腔をくすぐる甘い香り。
このチョコを、みょうじさんが作ってくれたんだ。
自分の分を、俺にくれたんだ。
甘いチョコの香りと切なく苦しい胸の痛みに包まれて、俺も口の中のチョコと一緒にとろけてしまいそうだった。