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空白の記憶

第2章 Story-0 empty


「アンタ…?」

胸から顔を剥がし、固まった笑顔のままで僕を見直す彼女は、未だに見開いた目から涙を流している。
空の心からも分かるほど動揺し、痛みを持つ彼女の心を、僕は待つ。
五分ほどそれが続いて、ようやく彼女は動いた。

「…君、名前は?」

僕の問いに答える余裕はないのだろう。彼女は言った。
僕は考えた。
名前を覚えてない。と言ったなら“いつき”という人物に仕立てられてしまう。
それは避けたかった。
不快だ。と思った。
だから僕は今、僕に命名する。


「――――空白(カラシロ)…。」
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