第2章 夏はまぶしい季節です。
鳴子くんは何かというとお礼にあめちゃんを繰り出すので、もしかすると今回もそうだったかもしれない。
「ほら、行くぞ。」
「あ、うん…!」
これ以上玄関先で問答を続けるのも何なので、彼の好意に甘えることにする。事実プリントは終わらせなければならないし、もし部内で誤解が生じるようなら全力で解きに行くしかない。
私から紙袋をお礼を言って受け取った今泉くんは、私に背を向けて先を行く。私は素直に彼の後についていく。
玄関ドアを開けて家の中に入ったところで、私は誰か他の人の気配がすることに気付く。
「坊ちゃん、お帰りなさいませ。」
「玄関先まで迎えに出ただけだろ、高橋。」
「は、初めまして!お邪魔します。今泉くんと同じ部活のといいます。彼にはいつも本当にお世話になってて…」
「ああ、いいんですよ私などにそんな丁寧な挨拶をしなくても。」
「え…」
柔和な笑顔の「高橋」と呼ばれたその人は、私に遠慮がちにそう言った。
ご家族なのかと思ったけれど、何やら様子がおかしい。
まずもって今泉くんが「高橋」呼びだし、家の中なのにスーツを着ている。
それにこの人は最初、今泉くんのことを何と呼んだ?
「坊ちゃんも女性を連れてくるような年頃になられたのですね……」
「よ、余計なことは言わなくていい高橋!用があるときだけ呼ぶから、それ以外は放っておいてくれよ。勉強するんだ。」
「かしこまりました。」