第1章 春は出会いの季節です。
たまたま居合わせた空間で起こったことに結構な衝撃を受けながら、それでも自分には関係のないことなのでそのまま彼の背中を見送ろうとした私だった。
のだけど…………
彼が真横を通り抜けた直後、新品の上履きが廊下の床と嫌な感じに擦れ、体のバランスを崩してしまった。
転びはしなかったものの、両手いっぱいに持っていた荷物が廊下に音を立てて散らばる。
「!」
結構な音をたてたので、すぐ前を歩いていた彼が気付いたのかこちらを振り返った。
そして廊下に散らばる惨状を見て少し驚いたような表情を浮かべながら、言った。
「………大丈夫か?」
「え」
先程の女子に返事もしていないようだったので、まさか自分に声をかけてくるとは思わなかった。
驚いて思わず固まってしまう。
私の返事を待つことなく、彼は散らばった荷物を拾いまとめ始めた。
そこで私はようやく我に返る。
「あ、ごめんなさい…!大丈夫、ありがとう!」
「随分派手にやったな。」
「あはは…ちょっとバランス崩してしまって。」
結局ほとんど彼に拾ってもらう形になってしまった。
さっきの女子達を完全スルーした割には、良い人なのかもしれない。
そう思い、
「ありがとうね、ええと…今泉くん。」
そう名前を読んだ瞬間に、彼のまとう空気が急に冷たくなった。