第1章 春は出会いの季節です。
この雰囲気のせいだろうか。
いつもならとてもじゃないけれど聞きにくいことが、あっさりと唇からこぼれ落ちる。自制がきかなかった。
「今泉くんはさ………」
「?」
「例えばだよ?好きな子がいて、その子が自分のことをまるっきり意識してなかったとしたらどうする?諦める?」
「は………?と、突然何だよ。アニメの話か………?」
「あ…そ、そう!アニメ!今ハマってるやつで、切なくてね?」
「…………………」
今泉くんは私から視線を外し、少し考えたように間を置いた。
そして、考えがまとまったのかもう一度私を見据えると口を開く。
「こっちを見てもらえるように、努力するしかねぇんじゃねぇか。」
「………!」
「諦めるっていうのも、そんな簡単なことじゃねぇからな……。大体諦められるくらいなら、そんなのは本気とは言えねぇだろ。俺なら諦めないし、諦められない。」
「…………そ、そうだね…。」
「……やっぱり何かあっ…」
「ありがとう、ごめん変なこと聞いて。明日も頑張ろうね、おやすみ!」
真剣な眼差しに捕らえられて、動揺してしまった。なんとか次の言葉だけ絞り出し、何かを言いかけた今泉くんを残して私はその場を後にした。
結局その日、飲み物は買わず終いになった。