第1章 春は出会いの季節です。
幹が、どうしたの?という表情で何度か瞬きをしながら私の顔を凝視している。
「あー……いや、あのその…」
「もしかして、今泉くんのファンの子から探り入れられた?」
幹は、ふふっと笑って何でもないことのように言う。
「昔からそうなの。今泉くん、イケメンだしロードを始めてからファンの女の子が増えて。私幼馴染だからそういう子達からすると鬱陶しい存在なんだろうね。」
「そんな、鬱陶しいだなんて…!」
「いいのいいの。別に気にしてないし、実害あるわけでもないから。それに、みんなが気にしてるような事実もないしね。」
「事実?」
「今泉くんと付き合ってたり、好きとかそういうの。私達、お互い全然ないから。」
全然ないから
幹のその言葉に勝手にエコーがかかり、ガラスが割れるような音と共に脳内で何度も響く。
全然ないって言われてるけど今泉くん…!!!
「そ、そうなんだ…」
「だから、探り入れてきた子に安心してって言っておいて。」
「う、うん………」
元々ざわついていた気持ちが今の一件で更に重さを増してしまった。
片や恋、片や無。
知らぬが仏という言葉の意味を痛感する。
布団に入ってからも色々考えてしまい、なかなか寝付けなかった。少し一人になりたかったので先に眠った幹を起こさぬよう部屋を出て、飲み物を買いに歩くことにした。