第1章 春は出会いの季節です。
「気にならないのか?今泉の好きな相手。」
「え?」
やけに今泉くんの話題を続けたがる手嶋先輩を不思議に思う。
今泉くんの好きな人が気にならないかと言われれば嘘になるし、なんならその相手の女の子の安否が危ぶまれる。
手嶋先輩は今泉くんの好きな人を知っているかのような口ぶりだということを前提に考えると、自ずと可能性のある人物は絞られてくるはずだ。
少し考えを巡らせた直後。
私の脳裏にある一人の女の子がよぎる。
「も、もしかして…」
「…………お、気付いたか?」
「なんで今まで気付かなかったんだろう…幼馴染ですもんね、二人。幹…………可愛いしスタイルもいいし、性格もいいし自転車に詳しい…。自転車乗りの彼女にするにはもってこいですね、確かに。」
私がそう言って手嶋先輩に顔を向けると、彼は柔らかくフッと笑ってこう言う。
「俺はさっきの話で言うならの方がタイプだけどな?」
「え?!」
手嶋先輩から返ってきた予想外の言葉にドキッとし、急に頬が熱くなる。
私の反応を見て満足したような表情を見せた先輩は、「なーんてな。」と付け加えてソファから立ち上がる。
おまけに「本当に素直だよな、。」と、褒められたのかけなされたのかわからない一言。
「合宿まだ3日も残ってるから早く寝るんだぞー、おやすみ。」
「あ…おやすみなさい!………あ、あの、手嶋先輩!」
私に背を向け、もう歩き始めていた先輩が私の声に振り返る。
「ん?」
「また今度、アニメの話ゆっくりさせてください。」
「ああ、もちろん。」
私に軽く手を振り、手嶋先輩は自分の部屋に戻っていく。
さすが、策士。
先輩の「なーんてな。」の破壊力に改めて赤面させられながら、私もまた自分の部屋へと戻っていった。