第1章 春は出会いの季節です。
巻島先輩は、箱学には山神と呼ばれる天才クライマーがいると言っていなかったか。
その人の二つ名は「スリーピング・ビューティー」
ファンクラブもあって、常に周りの女の子が黄色い悲鳴をあげているのだとか。
「あいつはすべての女子に好かれたいらしいっショ」
巻島先輩の言葉をはっきりと思い出した。なるほど合点がいった。
真波くんは女の子好きなんだ。
だからああいう言葉が軽快にポンポンでてくるのだろう。
私が次の言葉を慎重に選んでいる間に、彼の携帯電話が着信を告げた。
携帯を制服のポケットから取り出し、メールを開いた真波くんは少しだけ表情を歪めて呟く。
「げっ、やば…委員長怒ってる…」
「え…!ごめん、急いでた?!」
「あー、ううん。大丈夫だよ。今日たまたまここに居合わせて良かった。俺もう行かなくちゃ。」
"俺達また会えるよね、ちゃん"
その言葉と爽やかな笑顔を残し、先ほどと同じように真波くんはあっという間に私の前から姿を消してしまった。
最後にもう一度お礼を言う暇もなかった。
彼の姿が完全に見えなくなってからふと、我にかえる。
「え、ちゃん…?!」