第1章 春は出会いの季節です。
「さん、がく…くん?」
「ほら、山岳部とかあるでしょ?山の。あの"山岳"。」
「ああ…!」
さんがく、という名前を聞いてどんな字を当てるのかすぐに思い当たらずにいたのを見破られたらしい。
人の名前は字のバリエーションも豊富だから尚の事だ。
あんまり聞く名前じゃないからねー、と真波くんは笑顔のままで続ける。
気を悪くしたわけではなさそうで、少し安心した。
「俺、山とか坂が大好きでさ。時間見つけてはこうやって一人で登りに来てるんだ。君は?さっきの子から少し聞いたけど総北自転車部のマネージャーさん?」
「あ、うん…!です。この前入部したばかりでまだ全然自転車のことわからないんだけど…」
「へえ、そうなんだあ。いいなあ、総北は可愛いマネージャーがいて。」
「へ?!」
真波くんの言葉に、突然思いもよらぬ方向から殴られたかのような衝撃を受ける。思わず変な声が出てしまった。
真波くんはそれすらも「はは、良い反応だね。かわいい。」などと言ってまた笑っている。
どうしよう。見た目にそぐわず結構チャラい人なのかもしれない。
助けてもらっておいて何だけど、この後どう対処するのが正解だろうか。
そう考えたところで、突然私は天啓のようにあることを思い出した。