第1章 春は出会いの季節です。
またしばらく間をおいて、言うか言わまいか迷ったような表情を見せた後で巻島先輩は口を開いた。
「 …さっきのレースを見てたときの。」
「?」
「まるで、お前が走ってんのかよって言いたくなるくらい集中して辛そうで、一生懸命だったっショ。」
「あ、あはは…さっきはもう夢中で。恥ずかしい……」
「そんなに一生懸命になってくれるやつが仲間になれば、皆心強いだろうな。」
「え……」
「それじゃ、気をつけて帰れよ。」
後ろ手に軽く手を振り、ちょうど辿り着いた駅の構内を巻島先輩は先に行く。
最後にかける言葉が見つからないまま、その日私はそこで巻島先輩を見送った。