第1章 春は出会いの季節です。
「あ………いや、ちょっと考え事を…」
「そうか、声かけて悪かったっショ。」
そう言って巻島先輩は私を追い抜き、スタスタと先に歩いていこうとする。
「あ、待ってください!駅まで一緒に行きませんか?」
「はあ?お、俺と?」
私の声に半分振り返った巻島先輩の表情が戸惑っている。
「別に構わねえけど……面白い話なんかできないぜ。」
そう言って肩をすくめ、ぎこちなく笑う。
気を遣われていることは明白だけれど、でも、せっかくのチャンスだ。
巻島先輩と話してみたかった。
私は小走りで巻島先輩の隣に並ぶ。
「すごかったですね、レース。」
「ああ。」
「山の頂上での小野田くんと今泉くんとの競り合い、すごく熱くて…やっぱりスポーツっていいなって思いました。」
「は中学のときは運動部だったのか?」
「あ、はい………一応。」
「……………………。」
「……………………。」
何も返事がないので隣の先輩を見上げると、困ったような表情でチラチラと私の方を窺っていた。
「?」
「いやその……俺はあんまりお喋りってやつが得意じゃねぇんショ。元がそれだからよ、特にさっき出会ったばかりの相手になんてどこまで踏み込んでいいのかわかんねぇから間合いが不自然になる。」
「私になんてそんなに気を遣わなくていいですよ。」