第1章 春は出会いの季節です。
「そんな顔、するなよ。」
かけられた声の方向に向き直ると、そこにはレースを終えた今泉くんの姿があった。
「俺が勝ったことでそんな顔させてるのかと思うと何だか複雑だ。」
「あ……いや、今ちょっと考え事してただけ。別に今泉このやろうとかそんなこと思ってないから!」
「……別にそこまで思ってるとは思ってなかったけどな。」
そう言って、彼は笑う。
初めて見た笑顔だ。
控えめだけど穏やかで、ほっとする。
「………………」
「な、何だよ。なんでそんなに見てる?」
「あ、ごめん…初めて笑ってくれたから。何だか嬉しくて。」
「結構ストレートに恥ずかしいこと言うよな、お前……」
今泉くんは片方の手のひらで顔を覆う。と思えば、すぐその手を取り払って真っ直ぐ私に視線を合わせた。
「約束、覚えてるか。」
「え…」
「名前だよ、名前。」
「ああ、そうだった!!ごめんなんだかもう知ってもらってる気になっちゃってて。」
「ったく……。自分だけガンガン俺のこと呼びやがって。」
「えっと、です。小野田くんと同じクラスだよ。よろしくね。」