第1章 春は出会いの季節です。
このレースは経験者の今泉くんと初心者の小野田くんが競うため、ハンデが設けられるらしい。
時間にして15分。
まったくの素人からすると15分のハンデというのはとても大きいものに思える。
もしかしたらもしかして……ということもあるのでは。と、嫌でも期待が膨らんでしまう。
でも、そんな期待はやはり甘かったのだとレースが終わる頃に私は思い知らされた。
小野田くんは大健闘したものの、惜敗。
レース後にボロボロの状態の小野田くんから何度も何度も謝られてしまって、むしろこちらが申し訳ない気持ちになった。
軽く「頑張れ」なんて言ってごめんね、と。
だって知らなかったのだ。
裏門坂があんなに斜度のある坂だなんて。
レースってこんなにしんどいものなんだって。
レース展開を追うため乗せてもらった、幹のお兄さんが運転する車の中で聞いた話によれば、今泉くんは中学時代から名の知れた実力のある選手だったらしい。
その彼が興味を持ったほどだ。
小野田くんは自転車の素質があるのかもしれない。
幹も言っていた。
自転車は、昨日まで普通の人でも急に才能が開花することがある、と。
なんだか気持ちがいやにザワつく。
このままでいいのかな。
そんな思いが自分の中にふつふつと湧き上がっていた。