第1章 春は出会いの季節です。
幹の態度に大きくため息をついた今泉くんは、もうこれ以上言っても無駄だと判断したのだろうか、口を閉じた。
さすが幼馴染というだけあってお互いのことをよく理解しているんだろう。
私は二人の側を離れ、端で明らかに萎縮している小野田くんのところへ向かった。
ギャラリーを形成している女子達はみんな今泉くん目当てなので、アウェー状態なのである。
見ていてかわいそうなほど意気消沈している。
「小野田くん!」
「あ………さん……」
伏せていた顔を上げた小野田くんは今にも死にそうだった。
何か。何か小野田くんを奮い立たせる言葉はないだろうか……必死に考える。………やはりここは。
「小野田くん!勝って今泉くんを私達の物にしよう!!」
「おいそこ、誤解を招く言い回しをするな!!」
背後からすかさず今泉くんのツッコミが入る。よく周りのことを見ている人だ。隙がない。
私の言葉を聞いた小野田くんは一瞬ポカンとしたけれど、すぐにその目に光を灯す。
「そ、そうだよね…!頑張らなきゃ!!!アニ研再始動のために!!」
「入部してもらった暁には、今泉くんを色んなものに沼落ちさせて染め上げよう!!」
「うん!それで皆でアキバに!!!」
「おい……なんなんだ、沼って…」
部員確保のことを持ち出したので、めでたく小野田くんの士気が高まったようである。声掛けの成果は上々だ。