第1章 春は出会いの季節です。
「それより、よ……」
彼の発言に肩を落としていると、今泉くんが次の言葉を言いにくそうにモゴモゴとしているのが目に入る。
「どうしたの?」
「俺が勝ったら、名前。教えろよ。」
「え、名前?」
今泉くんは、こくんと頷いてから私に背を向け準備を始めてしまう。
私の返答はもう受け付ける気はなさそうだ。
別に名前なんて勝ち負け関係なく教えるのに。
そう思ったけど、なんだか照れているように見える今泉くんが可愛くて思わず笑ってしまった。
すると、私の笑う気配に気付いたのか今泉くんはすかさず振り返る。
「……おい、なんで笑ってる。」
「え?いや、別に」
「明らかにニヤけてるだろ今」
彼の反応が面白いから、つい余計に笑顔がこぼれてしまって困る。
そんな私達を遠巻きに見ていたらしい幹が近付いて声をかけてきた。
「今泉くんが女の子とこんなに親しくするの、珍しいね。」
「は?!」
幹の言葉に今泉くんは今まで聞いた中で一番大きな声を出した。
クールそうに見えるけど、案外そうでもないのだろうか。
「だってそうじゃない、いつもなら女の子なんて全然寄せ付けないのに。」
「べ、別に俺は……というか寒咲!このギャラリーは何なんだよ、帰らせろ!」
「私が呼んだんだよ。レースには観客!これ重要!」