第9章 変わろう
影山のトスミスから始まり、東峰のサーブミス。菅原西谷のトスミスと、烏野の調子は一見悪いように見えた。
しかしこれは烏野高校が大きく進化しようとしている証でもあった。
「どうしたんですかね烏野。調子悪いんでしょうか?」
「ハハ その逆じゃないか?」
「えっ」
烏野と梟谷の試合を傍で見ていた音駒の猫又が、何とも愉しそうに笑い声をあげる。
猫又は気づいていた。これは衰退ではなく紛れもない "進化" であると。
「烏(からす)だけあってさすがの雑食性。深い山の奥だろうと歌舞伎町のど真ん中だろうと、食べられるものはすべて食べ─ 自分より強い者は利用し生き残る。恐らくあれは驚くべきスピードで進化している途中だよ」
ベンチでスコアを付けながら、変わろうとしている仲間たちを見て花菜も頼もしく思う。
この二週間、みんながそれぞれの課題に挑み努力する姿を近くで見守ってきた。
時には一緒にボールに触れ、少しでも烏野の力になれるように。
でも、ひとりだけ。チームの空気とは違った温度を感じる選手がいるのもまた事実である。
「「「あざーした!」」」
一試合目は12対25で梟谷の圧勝に終わった。
挨拶をしてコートを抜ける選手たち。その中で面倒そうにため息を吐く月島の背中を、花菜は悩ましげに見つめていた。
今回の合宿のペナルティは坂道ダッシュらしい。
それも、 "森然限定 さわやか 裏山 深緑 坂道ダッシュ" という名前と裏腹にえげつないペナルティである。
「じゃあ用意 ゴー!」
澤村の合図と同時に烏野の面々は一斉に坂道を駆け登る。
これから一週間、負ける度これが続くのだ。
見ているだけで疲れるのだから、走っている選手たちの疲労は計り知れない。