第9章 変わろう
前回の遠征から離れていた間も京治とは連絡を取り合っていたけれど、こうして声を聞くのは文字通り二週間ぶりである。
「これから一週間は毎日京治くんに会えるんだね」
「そうだね。休憩時間とか空いてる時はこうやって話せそうだ」
日中は試合尽くしでまとまった時間は取れないかもしれないが、一週間もあれば京治と過ごせる時間もそれなりにあるだろう。
加えて、花菜にはこの期間でもう一つ考えなければならない事がある。
そう── 数日前の及川からの告白の返事を。
「花菜?」
急に考え込んでしまった花菜を京治はどこか心配そうに見つめる。
京治の声にはっ、として花菜は慌てて顔を上げた。
「どうかした?なんか悩みがあるなら俺で良ければいくらでも聞くけど…」
「う、ううん!なんでもないの。気にしないで」
京治はしばらく訝しげな視線を花菜へと向けていたが、それ以上詮索はせずに大人しく そうか、と頷いた。
今は夏合宿の最中だ。
練習中は余計なことは考えないようにしようと、花菜は活を入れ直した。
『じゃあ京治くん、梟谷との試合楽しみにしてるからね』
「ああ」
モップを片手に花菜は倉庫を出た。
体育館には烏野の選手たちも続々と揃ってきており、各々アップを始めている。急いで仕事を片付けた花菜も遅れてチームに合流した。
「よーし。今回はがんがんメンバー変えてくからそのつもりでな」
「「「はい!」」」
熱い夏がついに始まる。
一試合目の相手は木兎光太郎率いる梟谷だ。
初戦から京治と当たることになり、花菜もいつにも増して気合が入っていた。