第8章 緩み絡まり
「これと… これもかな」
冷蔵庫からさっき自分が買ってきた果物をいくつか取り出して、切ったフルーツを白い皿に盛りつけてゆく。
強豪の主将ともあろう男が部活終わりにこんなとこで何をしてるんだ、なんて言われそうだが、花菜のためだと思えばなんのことはない。
むしろもっと頼って欲しいくらいだ。
「ん?」
切った果物を持って花菜の部屋へ戻ろうとした途中、リビングの端の方に大きなキャリーバッグを見つけた。
淡いピンク色のそれは、間違いなく花菜のものだ。
恐らくは3日後に控えている東京合宿に向けての荷物だろう。どうやら体調以外は準備満タンらしい。
「あ」
いい事思いついた、と及川は口元を綻ばす。
そのまま上機嫌で花菜の部屋に果物を届けるついでに、及川は花菜に断りを入れ、一度 結城家を後にした。
花菜の家を出た及川が向かった先は他でもない自分の家だった。自分の部屋から "あるもの" を引っ張り出して及川はまたすぐに花菜の家へと戻る。
再び花菜の家のチャイムを鳴らした時には、彼女はすっかり夢の中だった。
「ほんっとに無防備だな。介抱しに来たのが俺で良かったよ」
出る時に花菜から預かった鍵で及川はもう一度家に上がった。
それからリビングへ向かい、彼女のキャリーバッグに手を伸ばす。
「ごめん花菜。余計なものは見ないからさ。 …たぶん」
と、言い訳に近い謝罪を零してから及川はキャリーバックのチャックを開けた。
そしてその中の奥の方にたった今家から持ってきた "あるもの" を忍び込ませれば ──
ちょっとした悪戯の完了だ。