第8章 緩み絡まり
このイタズラに気がついた時、花菜はどんな反応をするだろう。
それを知るためにも彼女には何としてでも風邪を治してもらわなければ。
─ お大事に
そう記した置き手紙を残して及川は花菜の家を出た。
その足で花菜の父が勤務している高校へ行き、預かった鍵もきちんと返す。
お陰様で、花菜の父の及川に対する株はまた更に上がっていた。
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花菜が風邪を引き、及川の看病を受けた挙句その彼に突然の告白をされてから三日後。
部屋の鏡の前で花菜はすっかり元通りになった顔色にほっと胸を撫で下ろしていた。
「なんとか全快だ…!良かった…」
これも及川の親切な看病あっての回復である。彼にはまた借りを作ってしまった。
それだけではない。これから、あの日の返事も考えなければならないのだ。
"好きだ"という及川の言葉が突として脳内で繰り返され、花菜はかあっと頬を染める。
あの告白は想定外中の想定外だった。
故に心の準備なんてこれっぽっちも出来ておらず、あの時はただ黙りこくる事しか出来なかったのだ。
「徹先輩…」
彼に告白されるのはこれで二度目。
でも今回は、一度目の時とは明らかに違う。
それは及川の告白がどうこうという話ではなくて 花菜自身の気持ちの変化が生む違いだ。
前と今では確かに違う。
もはや言い逃れなど出来ぬほど、花菜は及川のことを "男" として意識してしまっているのだ。
本当は合宿だけに集中したいけれど、あまり引きずるのも及川に対して失礼だ。
明日からの一週間合宿で沢山悩んで答えを出そう、と花菜はそう心に決めていた。
そしてその夜。
大きなキャリーバッグと仲間たちと共に花菜は東京へ発つのだった。