第8章 緩み絡まり
そして、返事を悩む間だけでもいいから ──
俺の事で頭がいっぱいになればいい。幼馴染の男のことなんて考える隙もないくらい、俺に振り回されればいい。
こんな情けない独占欲を花菜が知ったら、彼女は呆れてしまうかもしれないけど。
「は…、はい」
掠れた声と短い返事。
それでも伝えたいことは言葉に出来たから、あとは花菜の返事をただじっと待つだけだ。
よっ、と腰を上げて及川は立ち上がった。
「キッチン借りていい?果物、切って持ってくるよ」
「それくらいなら自分で…」
「いいから。花菜は大人しく寝てること。東京合宿だって数日後に控えてるんでしょ?」
烏野が東京遠征を終えてからもうすぐで3週間が経つ。
2日間の遠征の次は1週間の夏合宿だ、と前に花菜が言っていたが もうそれも近いのでは?と思ったのだ。
「その、実は 3日後の夜には宮城を出るんです」
「3日後!? ちょほんとに、風邪なんて引いてる場合じゃないじゃんか!」
全く困ったものだ。
頑張り屋は花菜のいい所だが、オーバーワークギリギリなのは中学の頃から彼女の一番の課題点である。
「とにかく今は治すことだけを考えればいいから。眠りながら… そうだね、俺の夢でも見といてよ」
「っ、//」
面と向かって話していたら、パンチのひとつでも飛んできそうな台詞だが 幸いにも今彼女がいるのは扉の向こう側だ。
自分ばかりがドキドキしているお返しだ、と及川は密かに口角を上げた。
花菜の部屋の前を離れると及川は階段を降りて1階のキッチンに向かった。
綺麗に手入れされていて物も少ない。花菜が毎日欠かさず掃除をしているおかげだろう。