第8章 緩み絡まり
「かっこよく、ねぇ……」
花菜は素直だから思ったことをそのまま述べただけなのだろう。
そう分かっているのに、自分以外のオトコにそんなことを言って欲しくないと思う。
及川の脳裏に影山と話した日の事が浮かんだ。
"伝えるなら今だ" と心の奥から声が聞こえる。
「花菜」
名前を呼んで、それから
「好きだ」
及川はただまっすぐに、そう伝えた。
「え……?」
花菜の口から声が返ってきたのはそれから数秒後。
そんな僅かな時間ですら、とてもとても長く感じた。まるでコートに立っている時のような緊張感が及川の身を包むのだ。
否、コートにいる時は6人だからまだいい。
でも今ここにいるのは、自分と花菜の二人だけなのだ。
そう意識すればするほど心臓は煩く波打った。
「あの、徹先輩… それってどういう、」
「どうもこうもないよ。まぁでも花菜は鈍感だからもう1回だけ言う」
ホントは怖くてたまらない。
花菜が今どう思っていて、何を感じているのか。知りたいけれど知りたくない。
でも 手に入らなくなってからでは遅いのだ。他の男に取られて後悔するのは嫌だから、ここで言うと決めたのだ。
「花菜のことが好きだ。俺と、付き合ってくれませんか」
「!」
今度こそ その意味をはっきり理解したらしく、花菜は息を詰まらせて黙ってしまった。
顔が見えないのは有難いと思ったが、彼女がどんな表情をしているか分からないのもまた違った緊張感がある。
「返事は急かさないよ。時間かけてもいいから、ちゃんと考えといてほしい」