第8章 緩み絡まり
図星すぎて何も言い返せなかったのが答えだ。
とうとう諦めて潔く認めた花菜に、及川はまた小さく息をついてむっとした声で言う。
「待っててよ、何か買って家まで行くから」
「っそんな!」
「風邪引いてる時くらい誰かに甘えたっていいんじゃないの。とにかく、花菜が何と言おうと俺は聞かないから。じゃあ後でねっ」
恐れていたことが現実になってしまった。
ほとんど強引に切られた電話にろくな反論も出来ず、及川の声だけがずっと頭のなかで木霊している。甘えても良いのだろうか、でも風邪を移したくはない。
だが、恐らく及川は何を言っても家に来てしまうだろう。
ならばせめてあまり接触しないようにしよう、そう決めて花菜はもう一度ドサッとベッドに身体を沈めた。
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及川の電話を受けてから数十分後、ピンポーンと花菜の家のチャイムが鳴る。
一度押しても反応はなく、及川はもう一度インターホンを鳴らしてみたがやはり反応はない。電話をしてみようとスマホに手を伸ばしたが寸のところでやめた。
花菜は眠っているのだろうか。そうならば起こしてしまうのは気が引ける。恐る恐る玄関に手をかけると扉はガチャっと音を立てて開いてゆく。
「! …危機感なさすぎ」
やはり家まで押し掛けて正解だった。そう思いながら、及川は物音を立てぬよう静かに家のなかに入った。
端から見ればまるで泥棒だが、いまはそんなこと言っていられない。先程スーパーで買ってきた果物やらを冷蔵庫に閉まってから及川は花菜の部屋へと向かう。
幼い頃から何度も訪れては来たものの、部屋に行くのは随分と久々だった。
「花菜?」
コンコンと部屋の扉を数回こ突くと扉の向こう側から電話で聞いたのと同じ、掠れた声が聞こえてきた。