第8章 緩み絡まり
すみません、と心の中で謝罪をして花菜は今度こそ眠りにつこうとした。そのとき。
~♪
「あれ…?」
再び鳴り始めたスマホ。しかしディスプレイに映ったのは及川の名前ではなかった。
「え!?」
"国見英"の文字列に花菜は思わず目を見開く。
確かに中学時代はそれなりに仲良くしていた後輩だが、彼が個人的に花菜へ連絡してくるなど滅多にない。
花菜は慌てて画面をスワイプしてスマホを耳元に当てた。
「もしもし」
「残念、俺だよ」
と、聞こえたその声に花菜の思考は停止した。
「俺の電話を無視するとはいい度胸だね。けどまぁ、まさかこうもあっさり引っ掛かってくれるとは思ってなかったけど」
出てしまった後に後悔してももう遅い。
電話越しに聞こえてきたのは国見の声ではなく、ついさっき着信無視したばかりの及川のものだった。
国見の名前に油断させて花菜を電話に出させる、そんな及川の作戦に花菜はまんまと引っ掛かってしまったのだ。
これが岩泉だったら電話に出ていなかったのに。
「ほんとは岩ちゃんの携帯からかけようかとも思ったんだけどさ、それだと花菜は勘づいて出てくれないと思ったから」
まさか心まで読まれているなんて。
ガクッと身体を落としながら花菜は小さく息をつき、風邪を悟られないよう出来るだけいつもの調子で言った。
「電話を無視したことは謝ります。でも、メールで伝えた通り今日は急用が入ってしまって…」
「はぁ~っ……」
「!?」
画面の向こう側から盛大な溜め息が聞こえてきて花菜はびくっと肩を揺らした。
及川の呆れた声はさらに続き、電話越しで花菜の耳へと届く。
「声でわかるよ。花菜、ほんとは風邪引いてるんでしょ?」
「う……」