第8章 緩み絡まり
今回も予期せぬ発熱で及川の誘いを断らざるを得なくなってしまったが、今は何よりこの風邪を治すことが最優先だ。
長引かせて東京合宿に行けなくなるってことだけは、絶対に避けなければ。
今ごろ、まだ体育館で頑張っているであろうチームメイトにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
きちんと完治させてみんなと一緒に東京へ行く。そのためにも今はとりあえず安静にしていよう。
「きついなぁ……」
熱で身体がだるいとはいえ、少しでも気が揺らいでしまえば花菜の足はすぐにでも烏野の体育館へ走り出しそうな勢いだった。
「ある意味…自分自身との戦いかも」
部活に出れないことがこんなに辛いことだったなんて。熱よりずっと辛いな、と花菜は思う。
ムズムズと震える足にぐっと力を込めて花菜は深く息を吐いた。少し眠ろう、と瞼を閉じたときベッド横のテーブルに置いたスマホが鳴り出した。
着信相手は及川だ。
先程、花菜は及川に「急用のため今日も会えなくなってしまいました」と、断りのメールを入れたところだった。
彼のことだから、心配してわざわざ電話をかけてくれたのだろう。
ここで電話に出てしまえば及川に風邪がバレてしまうかもしれない。そうなれば、及川は家にまで駆けつけてくる可能性がある。
そう踏んだ花菜は、敢えて及川の電話に出なかった。数コール後、ようやく止まった着信音に花菜は密かに胸を撫で下ろす。
及川は優しい。
でも今は選手たちにとって、とても大事な時期だ。もしもここで風邪を移してしまったら本当に申し訳がたたなくなってしまう。